否認権の行使を避けるには否認される条件を知ること
ナツメ@破産百科です。
自己破産の原則では破産者の財産は換価されて
債権者に配当されます。
換価処分と配当を避けるには、
財産を適切に保全する必要があります。
しかし、破産管財人には否認権があります。
否認権を使われると破産者の行為は取り消しになるので、
否認権の行使を避ける必要があります。
否認権の対象にならない行為の具体例として、
「財産の処分行為の中でも、相応の対価を得る場合」
があります。(例外があるので後述します。)
破産管財人の否認権
破産管財人には職権として否認権があります。
否認権が行使されると破産開始の決定の前にした
破産者の行為は取り消しになります。
破産開始決定の前に悪質な所得の移転や財産の隠匿があった場合は、
破産管財人が職権で財産を破産財団に組み入れます。
否認権を行使する理由
まず、破産手続きの本来の目的は以下の2つです。
- 破産者の財産を換価して債権者に配当する
- 配当は債権者に平等にする(※例外あり)
※例外として税金や罰金のような優先債権は除きます。
この2つの目的に違反する行為は否認されます。
つまり、公正な破産手続きの進行を妨害する行為は管財人に否認される
ということです。
また、破産者にとって重要なことは免責許可が下りることです。
免責は破産手続きの本来的な目的ではありませんが、
破産者にとっては重大な関心事です。
否認権の行使を回避する方法
否認権があるといっても全ての財産が問答無用で
破産財団に組み入れられるわけではありません。
自由財産という破産者が手元に残せる財産があります。
この自由財産を除いた全ての財産は
原則として破産財団に組み入れられます。
しかし、本来であれば破産財団行きとなる
財産であっても「ある方法」で財産を保全することが出来ます。
破産者のどの行為が否認対象となるのか、
否認の要件を理解することが重要です。
否認の要件を避けることで財産を保全できます。
否認の要件、法的根拠
破産管財人に否認権を行使される要件は
破産法によって厳密に定められています。
ここでは破産者が自己破産の申立の前後で
行いがちな否認対象行為の要件を解説します。
詐害行為
詐害行為(さがい・こうい)とは、債権者を害することを目的として、
財産を減少させる行為です。(破産法160条)
財産減少行為
債権者に損害を与える意思をもって、破産者の財産を減らす行為です。
減少行為によって利益を受ける人が
債権者に損害を与えることを「知っている」必要があります。
また、否認を避けるには受益者が「知らない」ことを立証する責任があります。
この財産減少行為は時期を問いません。申立の前でも後でも否認対象となります。
(破産法160条1項1号2号)
※破産法160条1項1号2号
(破産債権者を害する行為の否認)第160条 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
二 破産者が支払の停止又は破産手続開始の申立て(以下この節において「支払の停止等」という。)があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
財産減少行為は債権者に損害を与える行為全般が否認対象となっています。
債権者を困らせる目的で悪意を持って行うことを想定しているので、
該当するケースはほとんどありません。
支払い停止や破産申立ての後の財産減少行為は
債権者に損害を与える意思がなくても否認対象となります。
また、支払い停止などがあったことを「知らない」ことを立証する必要があります。
無償行為
支払い停止の前後6か月間にした無償行為は否認対象です。
(破産法160条3項)
※破産法160条3項
第160条 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。3 破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
支払い停止の前後6か月の間にタダで財産を譲ることは認められません。
処分できる財産は返済に使用すべきだからです。
よくある例として自動車の名義変更があります。
自己破産の申立直前に親族に車の名義を変更して
差し押さえを防ごうとすることです。
(後述の近親者への行為も要参照)
自宅の所有権を移転することも認められません。
「無償」行為となっていますが、無償に準じる有償行為も否認対象です。
例えば、時価100万円の自動車を500円で譲る契約は
無償行為と同等と判断されます。
無償行為の否認には詐害意思と受益者の悪意は不要です。
悪意とは事情を「知っている」ことです。
同時交換的な財産処分行為
財産の処分行為でも相応の対価を得る場合は否認の対象とはなりません。
しかし、財産隠匿の意思をもって財産の種類を変更したときは否認されます。
財産の種類の変更とは、例えば不動産を売却して現金に換えることです。
不動産は財産ですが現金も財産です。
(破産法161条1項)
※破産法161条1項
(相当の対価を得てした財産の処分行為の否認)第161条 破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害する処分(以下この条並びに第百六十八条第二項及び第三項において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
この「相当の対価を得てした財産の処分行為」は否認対象行為を避けて、
破産者の財産を保全するのに役に立ちます。
財産隠匿等の意思と推認されると否認権を行使されますが、
それ以外の場合は否認権の対象とはなりません。
このため、手元に残しておきたい財産がある場合は
弁護士に相談することをオススメします。
財産隠匿等の意思と推認されないためにはどうしたらいいのか、
アドバイスを受けることが出来ます。
近親者への行為
破産者への親族または同居人への財産処分行為は
財産隠匿の意思をもってしたことと見なされます。
(破産法161条2項3号)
そのため、親族に対する同時交換的な財産処分行為は否認されます。
※破産法161条2項3号
第161条 2 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が次に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が同項第二号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。三 破産者の親族又は同居者
偏頗行為
偏頗(へんぱ)とは偏ったという意味です。
冒頭で述べた通り、債権者は平等に扱うので偏った行為は否認対象となります。
(破産法162条)
義務に基づく担保供与・債務消滅行為
支払い停止の後の担保の提供、または債務の消滅行為は否認されます。
(破産法162条1項)
※破産法162条1項1号
(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)第162条 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。
担保の提供で最も多いのは自宅不動産に抵当権を設定することです。
債務の消滅行為とは借金の返済のことです。
債権者が事情を知っていたことが要件です。
担保供与や債務消滅に義務が伴うので、
債権者側に悪意があることが条件となっています。
また、破産管財人に悪意を立証する責任があります。
義務なき担保供与・債務消滅行為
支払い不能になる30日前までにされた
義務のない担保供与・債務消滅行為は否認対象です。
(破産法162条1項2号)
※破産法162条1項2号
第162条 二 破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。
この場合は債権者に善意を立証する責任があります。
他の債権者に損害を与えることを「知らない」必要があります。
支払い停止と支払い不能の適用
担保供与・債務消滅行為は義務があってもなくても
破産手続き申立ての1年前までの支払い停止は
支払い不能になっていると推定されます。
(破産法162条3項)
※破産法162条3項
第162条 3 第一項各号の規定の適用については、支払の停止(破産手続開始の申立て前一年以内のものに限る。)があった後は、支払不能であったものと推定する。
これから財産保全する場合・否認対象行為か?
まず、財産保全の行為が否認権の対象になるかどうかを検討します。
よくある事例として、
- 近親者への財産処分行為・債務の返済
- 知人・友人への優先返済・偏頗弁済行為
- 不動産売却による換金と財産隠匿
- 不動産に抵当権を設定する担保提供行為
などがあります。
特に否認権の行使には、相手方の悪意・善意が関わってくるので、
自分一人で考えても結論は出ません。
ここで言う悪意と善意とは一般的な意味とは異なり、
- 悪意とは事情を「知っている」こと
- 善意とは事情を「知らない」こと
となります。
相手方の悪意・善意を踏まえながら判断する必要があります。
そのため。弁護士によく相談して確認することをオススメします。
また、否認権の行使とは財産保全の行為が単に否認されるだけではありません。
否認と同時に以下の不利益が発生する可能性があります。
- 免責不許可(破産法252条1項1号〜4号)
- 詐欺破産罪(破産法265条)
※破産法252条1項1号〜4号
(免責許可の決定の要件等)第252条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
四 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
※破産法265条
(詐欺破産罪)第265条 破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(相続財産の破産にあっては相続財産、信託財産の破産にあっては信託財産。次項において同じ。)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。
一 債務者の財産(相続財産の破産にあっては相続財産に属する財産、信託財産の破産にあっては信託財産に属する財産。以下この条において同じ。)を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
2 前項に規定するもののほか、債務者について破産手続開始の決定がされ、又は保全管理命令が発せられたことを認識しながら、債権者を害する目的で、破産管財人の承諾その他の正当な理由がなく、その債務者の財産を取得し、又は第三者に取得させた者も、同項と同様とする。
このように、無理筋な否認対象行為を行うと
免責不許可のみならず刑事罰を含めた罰則があります。
そのため、財産保全より免責許可を優先するという判断は賢明といえます。
また、弁護士の助言を無視する形で否認対象行為をすると
弁護士に辞任される危険性があります。
愛着のある財産とは思いますが、
自己破産の第一の目的が免責許可にあることを
再確認することをオススメします。
否認対象行為をしてしまった場合
既に否認対象行為をしてしまった場合は、
担当弁護士にすぐに連絡します。
当該行為の証拠書類などを出来る限り集めて
担当弁護士に事情を説明します。
その行為が破産手続きの申立以前である場合は
相手方と任意で交渉して原状回復する余地があります。
相手方が近親者や友人の場合は
話し合いで原状回復に協力してくれることが期待できます。
しかし、金融機関の場合は原状回復する可能性は低いといえます。
借金の返済を受けた金融機関は損害が回復しました。
そこで原状回復してしまうと会社の利益とは反対の行為となってしまいます。
そのため、破産管財人の否認権によって、
原状回復してもらうことになります。
否認権の行使を回避する方法のまとめ
否認対象行為を行うと、単に否認されるだけでなく
免責不許可になったり詐欺破産罪に問われる可能性があります。
愛着のある財産を残す場合、
代理人弁護士と綿密な打ち合わせをして
否認権の行使を回避します。
財産保全が無理筋な場合は、
- 方針を個人再生に切り替える
- 財産を諦めて免責許可を優先する
の2つの次善の策があります。
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