自己破産の申し立ての注意点(保証人、担保不動産など)
ナツメ@破産百科です。
弁護士に相談して債務整理の方針が自己破産と決まったとき、
自己破産の申し立てには注意点があります。
特に保証人のように第三者がいる場合は
人間関係を壊さないように配慮が必要になってきます。
また、免責不許可事由がある場合は裁量免責を狙うために
誠実性を証明する必要があります。
自宅不動産を担保にしている場合は競売を避けて
任意売却や自宅に住み続けられるリースバックを検討します。
同時廃止と管財事件
破産の大原則では、裁判所が破産管財人を選任した上で
破産者の財産を債権者に配当します。
これを清算型の管財事件といいます。
しかし、破産者の財産が乏しくて管財人の費用すら用意できない場合は
同時廃止になります。(破産法216条1項)
同時廃止では破産管財人は選任されませんので、配当手続もありません。
申し立ての費用も予納郵券や官報公告費を合わせても2、3万円で済みます。
このように管財事件よりも同時廃止のほうがお金も時間もかかりません。
※破産法216条1項
(破産手続開始の決定と同時にする破産手続廃止の決定)第216条 裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない。
財産が乏しく本来は同時廃止になる案件だったとしても、
管財事件になるケースがあります。
それが免責不許可事由がある場合です。(破産法252条1項)
そのときは裁判官の職権にて裁量免責を得るため
免責調査型の管財事件にします。(破産法252条2項)
免責になるためには、裁判官と破産管財人に2度と免責不許可になることはしない、
という覚悟を見せる必要があります。
管財人の調査に協力して免責審尋でも裁判官の質問に嘘偽りなく答えること、
それが破産者の誠実さの証明となります。
私も免責不許可事由があったので免責調査型の管財事件になりました。
- 身の丈に合わない買い物や旅行が浪費扱いとなった
- 嘘の年収を申告してクレジットカードを作ったことが
詐術による信用取引となった
このように一見許されないような免責不許可事由があっても、
管財人と裁判官に協力して誠実さを証明できたので、
最終的には免責許可が下りて支払い義務がなくなっています。
※破産法252条
(免責許可の決定の要件等)第252条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
2 前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
免責不許可事由があるかどうか分からない場合や、
財産があるかどうか不明な場合も調査型の管財事件となります。
破産管財人の職権には破産者の「調査」もあるので、
不明点があれば管財事件となります。
例外として、免責許可は到底望めないが破産申立をすることによって、
債権者が債権償却して債権を放棄することがあります。
債権償却とは回収不能額を損失計上して売上から控除します。
その結果として債権は消滅しますので支払い義務がなくなります。
このように支払いを免れる裏技はありますが、
当然裁判所はこの方法を知っているので止められることもあります。
免責不許可事由
自己破産の最大のメリットは免責許可を得ることです。
免責になれば支払い義務がなくなるので、
どれだけ借金があっても生活の立て直しが出来ます。
しかし、破産法には免責不許可事由が定められていて、
該当すると免責は認められません。
よくある免責不許可事由の例として、
- 競馬やパチンコなどのギャンブル
- 株やFXなどの投機
- 多額の買い物や旅行などの浪費
- 度を越した風俗やキャバクラなどの女遊び
- 返すつもりのない詐欺的な借入
- 偏頗弁済(一部の債権者に偏った返済をすること)
などがあります。
ただし、ほとんどのケースでは裁判官による裁量免責によって、
免責許可が下りています。(破産法252条2項)
注意したいのは絶対に裁量免責になるわけではないことです。
退職金請求権を隠匿した事例では免責不許可となっています。
(福岡高裁判決昭和37・10・25)
借金の支払い義務を免れながら、裁判官を騙して
退職金だけは手に入れようとしたことが許されなかったという事例です。
このように免責不許可事由があっても裁判官や弁護士に隠したりせず、
正直に説明して真面目に反省することが重要です。
そして免責調査型の管財事件を利用して、破産管財人の調査にも協力すれば、
ほとんどのケースで免責許可が下ります。
支払停止
自己破産の申し立ての準備に入った時点で、
債権者への支払いを停止します。(破産法252条1項3号)
消費者金融や銀行カードローンで自動引き落としされないように、
銀行口座から現金を引き出しておきます。
クレジットカードの引き落とし先になっている銀行についても同様です。
(弁護士に相談した時点で支払い停止にするケースもあります。)
金融業者だけでなく友人や知人、親類などの借金返済も停止します。
偏頗弁済にならないように分け隔てなく支払い停止にします。
※偏頗弁済とは一部の債権者に偏った返済をすることで免責不許可事由になります。
※破産法252条1項3号
(免責許可の決定の要件等)第252条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
3 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
また、金融業者には借金と預金の相殺を主張されないように
支払い停止を通知します。
相殺とはお互いが対立する債権債務を持っているとき、
同じ金額分だけ消滅させる手続きのことです。
相殺には相手方の同意が不要で裁判所へ申し立てる必要もありません。
※破産法71条1項3号
(相殺の禁止)第71条 破産債権者は、次に掲げる場合には、相殺をすることができない。
3 支払の停止があった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない。
保証人
借金に保証人がいる場合です。
弁護士が受任通知を送ると、債権者は借金の保証人に取り立てを行います。
保証人には事前に連絡して法律家のアドバイスを受けるように
お願いすることが重要です。
予期せぬ損失にならないように配慮する必要性があります。
また物上保証人に対しては担保権の実行を行います。
物上保証人とは担保を提供した人のことです。
担保に不動産を設定した場合は所有権が移転して競売にかけられます。
競売では新聞で売却情報が公開されてしまい、
引っ越しも余儀なくされていしまいます。
引っ越しをすると町内会や子供の友達など人間関係が清算されてしまいます。
その競売を回避する手段として任意売却があります。
任意売却とは融資を受けた金融機関と合意の上で
市場で担保不動産を売却することです。
競売が始まるまでは任意売却が出来ます。
支払い停止から競売の期間入札開始までは半年から1年ほどあります。
この半年から1年間で担保不動産を売却出来れば、
普通の不動産取引とまったく同じ扱いとなります。
市場価格に近い金額で売却出来ますし、
引っ越しの時期や住宅の明け渡しについても穏便に相談できます。
また、ハウス・リースバックという仕組みを利用すると
引っ越しをする必要がなくなります。
ハウス・リースバックでは、まず自宅を売却します。
そして売却した自宅を借りることによって賃貸として住み続けられます。
過払い金
消費者金融の取引歴がおおよそ10年以上ある場合は
過払い金が発生している可能性があります。(※過払い金とグレーゾーン金利)
利息制限法の制限利率で引き直し計算をすれば、
債務が存在せず過払い金が相当程度あるケースもあります。
この過払い金を他の債権者に分配することによって、
自己破産ではなく任意整理に方針転換する可能性もあります。
※過払い金とグレーゾーン金利
平成19年(2007年)にグレーゾーン金利の撤廃
平成20年(2008年)に利息制限法による金利適用
※過払い金の請求には意外なデメリットがあるので注意が必要です。
⇒ 過払い金請求のメリットと意外なデメリット
消滅時効
最後の取引から5年以上経過している場合は消滅時効の援用が使えます。
この場合は破産原因である支払不能状態ではなくなるので、
自己破産の申し立てをするまでもなくなります。
消滅時効の援用をするとき、業者は時効の中断を狙ってきます。
下記に対策をまとめました。
⇒ 夜逃げ成功と消滅時効の援用と時効の中断の手口
まとめ
自己破産の最大のメリットである『免責許可』を得るには、
裁判官にも弁護士にも嘘を付かずに正直になることが重要です。
特に免責不許可事由がある場合は隠し事をせずに、
管財人の調査にも協力することで裁量免責が得られます。
また、保証人や物上保証人のように利害関係者がいる場合は、
事前に連絡をすることで余計なトラブルを防げます。
保証人も法律家に相談することで不当な不利益を被ることがありません。
その他、破産以外の選択肢が取れるケースもあります。
自己破産には免責になって借金の支払い義務がなくなるというメリットがあります。
しかし、自宅や車といった財産を失う可能性があります。
メリット・デメリットを考えながらベストな選択肢を取ることをオススメします。
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